虹の橋
今朝、愛犬ラッキーが虹の橋へと旅立った。
(元気な頃の甘えたしぐさを見せるラッキーです)
ラッキーに異変が起こったのは、今年のお盆の頃だった。
突然餌を食べなくなってしまった。
稀にみる猛暑だったこの夏、夏バテ気味なのかと病院に連れていくと、結構な高齢ということもあり、いつもは病院で分析する血液検査を専門の機関に送って調べるることになった。
数日後結果が出て病院に行ってみたが、とりたてて異常な数値を示す項目は無し。
ただ先生が注目したのは、血液の数値ではなく異様に早い心拍数だった。
元々心臓にフィラリア持ちだったこともあり、これだけ心拍数が早いと心臓が持たないのではないかとの診断だった。
いつものドライフードは全く食べないので、鶏のささ身をあげてみると少しは食べるけど、次の日はもう食べなくなる。豚肉や牛肉を試しても、殆ど同じ結果になる。
次第に痩せこけていき、餌を食べなくなって一週間もすると、自力で起き上がることすらできなくなってしまった。
しかし奇跡が訪れる。
夏休みを利用して妻の実家(ラッキーを飼ってもらっている所)に遊びにきていた姪が、口にローストチキンをくわえたまま俺と一緒にラッキーの所に行った時、普段は姪に見向きもしないラッキーが、起き上がることもままならないはずなのに、なぜが姪の後を追っていく。
どうやらローストチキンの匂いにつられているのではと、ハッと気がついた。
それからすぐに姪が食べ残していたチキンを取りに行き、手でちぎってラッキーの口元に持っていくと、ガツガツ食べだした。
人間が食べるものは犬にとっても美味しいとわかっていても、調味料や油はイカンと思って食べさせるのを躊躇したけど、何も食べない状況でそんなこと言ってられないということになり、それからは調子が悪くなってから作りはじめた手作りの餌(脂を除いた豚肉や牛肉と、キャベツ・ニンジン・サツマイモを茹でて食べやすい大きさに刻んだもの)にローストチキンを少し混ぜて、ごまかしごまかし食べさせ続けた。
新鮮な餌を食べさせたいから、俺は毎日遅くとも5時には起きて餌を作って、妻を起こして餌を持たせて5時30分にラッキー宅に出発させ、妻が面倒をみる(夕方は妻の母にお願いして)という毎日が続いた。
土日は俺も朝晩ラッキーに会いに行って、餌の食いつきや体調を観察した。
一か月もすると、手足の筋肉もだんだん戻ってきて、俺たちがラッキーの元に行くと、早く散歩に連れていけと言わんばかりに吠えるようになるまで回復した。
食欲も旺盛で、ローストチキンがなくとも手作りの餌をバクバク食べるようになった。
あとは徐々にドライフードの比率を上げていけば、すっかり元通りに元気になるだろう、そう思っていた矢先のことだった。
10月27日(土)の朝の散歩、ラッキーが好きな場所まで車に乗せて行った時のこと。
ラッキーの呼吸がゼーゼー音がしているのに気付いた。人間が風邪をひいたときの痰がからんだ時のような。
翌28日(日)になると、さらにその症状が顕著になり、気のせいか餌の食いつきも悪くなったような感じがした。
29日(月)から俺は県外に出張で3日ほど家を空けてしまうので、妻に託して月曜日にラッキーを病院へ連れていってもらった。
出張先で受けた妻からの電話によると、肺に水が溜まっていて、相当深刻な状態なのだとか。月曜の朝も晩も殆ど餌を食べなくなってしまったようだ。
病院の先生が言うには、あとはラッキーの生命力にかけるだけの状態だという。
すぐに好物のローストチキンを買っていっても、食いつきは芳しくないらしい。
チキンに薬を差し込んで何とか食べさせる、そんなせめぎ合いが数日続いた。
出張から戻り、11月3日(土)の朝にラッキーの元へ行くと、聞いていたほど深刻な感じではないラッキーがそこにいた(少し痩せてはいたけど)。
妻によると、この一週間で最も調子が良さそうに見えるとのこと。
軽く散歩をさせ、少な目に作った手作りの餌を与えると、ペロリと平らげた。
餌がなくなって困ったけど、試しにドライフードだけで与えてみると、驚くことにバクバク食いついた。
翌4日(日)も、呼吸は苦しそうだけど、餌はしっかり食べてくれた。
きっと薬が効いてきて、肺の水も少なくなってきたのかな、と思っていた。
今朝もいつものようにラッキーの散歩に妻が出かけていった。
と思ったら5分もしないうちに妻から電話がかかってきた。実家からラッキーが亡くなったとの連絡があったそうだ。
すぐに妻を家まで戻させ、一緒にラッキーの元に向かった。
そこには今にも起き出して、散歩に連れていってくれよと吠え出しそうなラッキーが横たわっていた。
まだかすかに温かみがあったから、朝方に息をひきとったのであろう。
水で肺が圧迫され、呼吸が苦しい何日かを過ごしただろうラッキー、もう苦しみから解放されたんだと思うと、悲しいけど少し穏やかな気持ちになった。
今日は午後休暇をもらい、ペット霊園で火葬をしてもらった。
ペット霊園に連れて行く時、ラッキーが一番好きだった散歩コース、通称「上の山」を通っていってあげた。
あまりにうるさくて、俺たち夫婦の家に一度も連れてきたことがなかったけど、しばらくは遺骨をウチに置いておくことにした。
タイトルの「虹の橋」とは、作者不明の詩によると、死を迎えた動物が向かう、天国の手前にある場所で、病気や年老いた動物であっても、そこに行くと元通り元気になって走ったり遊んだりできる、暖かで過ごしやすい場所なんだそうだ。
きっと今頃ラッキーは、寒い時期になると勝手に小屋に入ってきてラッキーと一緒に寝ていた猫、チョロとムーちゃんとクーちゃんと、虹の橋で久しぶりに再開し、楽しく遊んでいるのだろうと思う。
ただその詩によると、生前大好きだった飼い主と逢えなくて、それだけが気がかりで、ずっと飼い主を探しているんだとか。
そして飼い主が死を迎えると、虹の橋で再開し、一緒に橋を渡って天国へ行くのだという。
俺はラッキーの分も一生懸命生きていくから、それまで待っていてくれよ。
いつか必ず行くから。